六月の午後、風の音と多肉の沈黙。
スポンサードリンク
スポンサードリンク
| 名前 |
縁工房 多肉植物無人販売所 |
|---|---|
| ジャンル |
|
| 評価 |
4.0 |
| 住所 |
|
|
ストリートビューの情報は現状と異なる場合があります。
|
スポンサードリンク
周辺のオススメ
スポンサードリンク
スポンサードリンク
風の音と、多肉の沈黙について六月の午後だった。鹿児島の南部、海から少し離れた丘のあたりを走っていた。道はまっすぐで、両側には畑が広がっていた。車を停めたとき、遠くで犬が一度だけ吠え、あとは静寂だけがあった。風は少し湿っていたけれど、いやな感じではなかった。むしろ、何かを終わらせたあとのような、適度な余白があった。「縁工房」と書かれた素朴な看板の横に、小さな無人販売所がぽつんと佇んでいた。棚は木製で、ところどころに時間の染みのような色がついていた。そこに、多肉植物たちが整然と並べられていた。いくつかは背が低く、いくつかは長く伸びていたが、どれも過不足なく、黙ってそこにいるように見えた。名前と値段が小さな札に手書きされていた。その文字には、機械的でない温かさがあった。一定のリズムで並ぶカタカナ、丸みを帯びた数字。その人はたぶん、言葉よりも植物を信じている人なんじゃないかと、僕は勝手に想像した。無人販売所という形も、その人の哲学にぴったり合っている気がした。買いたいと思った。でも財布には紙幣しかなかった。僕はポケットを探り、車に戻って小銭入れを開け、また販売所まで戻ってきた。でもやっぱり、買わなかった。理由はよくわからない。もしかすると、そこにいる多肉植物たちの静けさに、自分が何かを乱すことへのためらいがあったのかもしれない。風がもう一度吹いた。多肉植物は、何も動かなかった。その無言の風景が、なぜかずっと心に残っている。僕は車に戻り、ラジオをつけた。けれど、音はなぜか耳に入ってこなかった。