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大栃山という山は、御坂山地の中にあって決して高名ではない。だが、山というものは名のあるなしで価値が決まるのではない。その姿が、そこに立つ者の心をどれほど揺さぶるかである。大栃山を南から望むとき、私はふと足を止める。その端正な円錐形は、まるで富士の若き日の姿を思わせる。黒駒富士という別名は、誰が言い出したのか知らないが、この山を一度でも仰いだ者なら、きっとその名にうなずくだろう。山頂に立つと、甲府盆地が大きく開け、春には桃の花が一面に咲き誇り、まるで桃源郷を雲の上から覗き込むような心地になる。南には富士、北には八ヶ岳、そして遠く奥秩父の峰々が静かに連なっている。大栃山は、名山たちの中央にあって、それらを敬虔に見守る小さな祈りのような山である。登路は素朴で、飾り気がない。だが、山というものは本来そうあるべきなのだ。人を選ばず、ただ静かにそこにあり、訪れた者にだけ、そっと美しさを明かす。大栃山は、まさにそのような山である。私はこの山を、御坂の奥ゆかしい佳人とでも呼びたい。華やかさを誇ることなく、しかし一度その姿を知れば、忘れがたい余韻を心に残す。大栃山とは、そういう山である。